杏。
この果実が放つ、めくるめく香り。
今年も嗅ぎたい。
ジャムにして閉じ込めたい。
次の通販は、杏ジャムでキメるって決めていた。
なのに。
今年は雹害で大不作。
どこの果樹園からも断られた。
頭を抱えていたら、
杏を抱えている人が現れて、
貴重な宝を託してくれた。
大切に大事に熟すのを待った。
なかなか心を開いてはくれなかったけれど、
長時間低温でオーブン焼きにして
秘めた甘さをあぶり出したり、
まっすぐ過ぎる酸味をレモンで紛らわせたり、
ほのかな香りをもう少し引き出すために
親和性あるアールグレイと過ごしてもらったり、
控えめな魅力をどうにか伝えられるように
杏と向き合った。
十日ほどかけて、杏はジャムになった。
煮沸消毒した瓶に詰めて蓋をした。
キュッと鳴ったのは、
私のほうだった。
(