2020-07-10

杏の話。




杏。

この果実が放つ、めくるめく香り。

今年も嗅ぎたい。

ジャムにして閉じ込めたい。

次の通販は、杏ジャムでキメるって決めていた。

なのに。

今年は雹害で大不作。

どこの果樹園からも断られた。




頭を抱えていたら、 

杏を抱えている人が現れて、

貴重な宝を託してくれた。




大切に大事に熟すのを待った。

なかなか心を開いてはくれなかったけれど、

長時間低温でオーブン焼きにして

秘めた甘さをあぶり出したり、

まっすぐ過ぎる酸味をレモンで紛らわせたり、

ほのかな香りをもう少し引き出すために 

親和性あるアールグレイと過ごしてもらったり、

控えめな魅力をどうにか伝えられるように

杏と向き合った。




十日ほどかけて、杏はジャムになった。

煮沸消毒した瓶に詰めて蓋をした。




キュッと鳴ったのは、

私のほうだった。